数年前のことだ。
 同じ卓球教室に通っていた少し先輩の女性、ここではKさんとする、がいた。
 私と同じように40歳過ぎてから卓球を始めたそうで、それなりに上手だったが、あくまで大人卓球初心者の範疇であった。
 そのうち卓球教室は辞めてしまったが、卓球は続けていたようで、たまに地域の卓球場に行くと練習している姿を見かけることもあった。
 私は妻や娘と練習しているのだが、Kさんは1人で練習していた。
 1人で卓球台を用意して、自前の球出しマシンをセッティングし、集球ネットを張って、黙々と多球練習をしている。
 一緒にやろうと声をかけて、3人で順番に練習することもあったが、基本的には1人で練習している。
 聞けばここで4時間くらい練習した後別の場所に移り、そこでは先生の指導を受けながら練習しているらしかった。
 毎日の様にマシン練習とレッスンを受け、月に何度か試合にも出ているが、なかなか勝てないと嘆いていた。
 Kさんの先生は厳しい方らしく、フォア打ちのフォームを駄目出しされて、 会う度にフォームの修正をしていた。十分上手なのだから他の練習をすれば良いのにとか妻と話していたものだ。
 1度か2度だが2人で練習したときもあった。
 Kさんは体力があって、4時間くらいならほとんど休み無しで付き合ってくれるので、定期的に練習相手になって欲しいと思っていたが、今よりさらに下手くそだった私の相手では、ほとんど練習にならなかったに違いない。

 最後にお会いしたのはいつだったか。
 まだ何時間か練習時間が残っているにも関わらず、疲れたと言って引き上げてしまった時があった。
 何だか憑きものが落ちたような顔をしていた。
 卓球から離れるのかな、と寂しい気持ちになった。
 それ以来Kさんの気配が消えてしまって、2度と会うことは無かった。
 卓球に注いだであろう熱量を考えるとき、すっかり足を洗ってしまったとは信じ難い。
 今でもどこかでラケットを振っているに違いないと、そう考えることにしている。