俺の名前は貴絽良介。
 都内の三流私大に通う、平凡な大学生だ。
 同学年の奴らは学期末のテストに向けてスパートをかけている頃か。
 テストなんて、ばからしいぜ君たち。
 教育の現場では1点1万円で取引されている現実を知らないのか、知らない振りをしているのか。
 俺はと言えばジャージにリュックと身軽な格好で新宿某所を歩いているところだ。
 ジャージといったって海外ブランドの特注品だ。その辺の若造には着こなせないハイセンスな服だが、俺が着ればビシッと決まる。フルオーダーメイドだから当たり前だ。 
 
 
 新宿駅の一般人には公開されていないプライベート駐車場に愛車の(外見は)ノートハイブリッドを停めて、そこから数分歩いただけでのどかな公園にぶつかる。
 この敷地内にあるスポーツセンターが今回の目的地だ。
 公営のスポーツセンターなどえらく庶民的だが、俺はこういう所も嫌いでは無い。
 トランジスターグラマーな受付嬢に愛想笑いをしながら3階まで上ると、だだっ広い通路にまでカンカンと小気味よい音が漏れ聞こえてくる。
 いつもながらこの音を聞くとアドレナリンが過剰に分泌されて、体が戦闘態勢になる。
  
 鉄製のやけに重い扉を開けて体育館へ入るなり、お目当ての人物の後ろ姿が目に飛び込んできた。
 気配を消して近寄る俺に気がついているのかいないのか、辻円弥 通称つじまるは筋肉質な体を薄いTシャツに包んだ身軽な格好で、俯いて座り込んでいる。
 「久し振りだな、つじまるよ」
 「物騒な気配を感じたが、やはりお前か貴絽良介」
 後ろを向いたままだが、ニヤッと笑った顔が想像できた。

 俺とつじまるのつきあいは長い。
 中学校に進学早々アラブ圏の某組織に放り込まれた俺が、言葉も通じず金も無く、スパイ容疑で殺されそうになり、親父仕込みのサバイバル術を駆使して脱出を企てていたときに遡る。
 鉄条網の植え込まれたやけに高い壁を乗り越え、あと一息で成功というところで結局捕まり、死にものぐるいの格闘をした相手がこのつじまるだったのだ。
 殺し合いの中でお互い日本人である事が分かり、意気投合して2人で逃げ出したのだが、後10秒遅かったらどちらかの首が折れるか目玉を潰されていたと思う。
 

 というような夢を見ていたら電車が止まり、高田馬場駅に到着した。
 澄み切った青空がビルの隙間から覗き、冬らしくない陽気も相まって、実に気持ちが良い。
 平和ですなあ。

 新宿スポーツセンターにつくとすでにつじまる師匠が到着していて、早速練習開始となった。
 先週はNetIn&EdgeBallClub練習会、今回は月曜昼間餃子会だ。
 午後からの練習もあるので、合計6本ものラケットを持ち込んだ。

 キョウヒョウ301 マークVXS ヘキサーパワーグリップSFX
 スワット 省狂3 GTT45
 エバンホルツ 剛力快速 アポロ5超極薄
 ピュアカーボン ヴェガプロ マントラS
 フォーティノフォース ロゼナ ラザンターV42
 カブリオレ ヴェガツアー マントラS

 卓球教室では良いと思ったマークVXSだが、つじまる師匠相手だと全然良いとは思えない。
 相手の球が遅ければ、しっかりスイングできるので弾みが弱いのも気にならないのだが、速い球相手だとネットを越すのが難しくなる。また一つ勉強になった。
 省狂3も同様。
 剛力快速とアポロ5超極薄の組み合わせはなかなか良くて、特にアポロ5超極薄は今まで使ったどの極薄ラバーよりも良い。ブロックもしやすく、打てば結構普通に打てる。
 他の3本はどれも良い感じで、打っていて楽しい。
 1時間30分ほど全力で打ち合い、午前の部は終了した。