風が鳴っていた。
 道にせり出した大きなケヤキの木が揺れる度に、黄色に熟した葉がひらひらと舞う。
 冬を目の前にした秋の終わりは、色鮮やかなのにモノトーンでもある。
 こういう季節も嫌いじゃ無いと、良介は思った。
 本来なら今頃飲み始めているはずである。
 はずであったが、時間が早すぎて繁華街に灯が入っていない。
 その鬱憤を晴らすように人混みを早足で歩く。
 何でこうなった。
 その思いが良介にはある。
 何だよ、畜生。
 思わず声に出してしまって、慌てて口をふさいで辺りを見回す。
 卓球なら誰にも負けない。
 そう自負していた。
 自分は見た目も悪い。
 気の利いた言葉も言えない。 
 頭も悪いし、金も無い。
 連れはいても友達とは言えない。
 横にいる立野だって、内心何を考えているのか分からない。
 ただ世間から受け入れられない、そのか細い連帯感で繋がっているだけだ。
 卓球だけは自信があった。
 もちろん全国1位であるとか、そんなレベルの話では無い。
 無いが、少なくともそのこら辺りの経験者気取りには負けない。
 そのプライドとも言えないプライドが、あっさりと砕かれたのだ。
 なにより砕いた相手にとっては、記憶にも残らない一戦である事が明白で、それがまた悔しかった。
 何だよ、何だよ。
 また声に出してしまった。
 酒でも飲まずにはいられなかった。
 その酒が飲めないのなら、また練習するか。
 




 「まだどこも空いてないですねえ」
 「そりゃそうですよ、まだ4時ですもん」
 日が沈むのが早いので忘れがちだが、まだ午後4時なのだ。
 みっちり練習をして、早く酒を飲みたかったのだが開いてないなら仕方が無い。
 そういえば先週行きそびれた山手卓球を見てみたい。

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 聖地聖地と言いながら、山手卓球を知らないなんて、モグリですね。

 ん
 幻聴?

 いつも歩いているさかえ通りを1本奥に入った場所に山手卓球がある。



 道一つ違えば、今でも人攫いや拐かしがいるから、注意するように


 暗転


 ・・・

 中に入ると予想通りの渋い卓球場で、2組ほど先客がいた。
 見るとスリッパで卓球をしていて、なるほどこういう場所なのねと納得。
 こうして本日3回目の練習開始。
 
 山手卓球は、台と台の間が狭いことと、卓球台がツルツルで滑ることと、石油ファンヒーターが効き過ぎて暑いこと以外は最高の環境である。
 まるで自分が傑作卓球マンガの「ピンポン」の登場人物になったような気分になれる。

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 最初はキョウヒョウ301にマークVXS。
 やっぱりネットばかりで早々にピュアカーボンにチェンジ。
 この回はお互いのサーブからの展開を重点的に練習した。
 私はバック側のサイドを切る順横サーブ。
 なぜだか調子が良くて、面白いように決まる。
 楽しい。
 上手く行くから楽しい。勝つから楽しい。
 
 立野さんにはフォア側に下回転サーブを出してもらって台上の練習。
 成功した記憶ばかりだが、冷静に考えて見ると9割方ミスしている。
 むりやり起こさないで、素直にツッツキにするべきであろう。

 何だかんだであっという間に1時間がたった。
 ファンヒーターのおかげで汗もたっぷりかいて、準備万端いつでも飲める。