長屋通りの路地裏で、卓球台で打ち合う2人と周りをかこむ人垣
 お金を賭けているのか見物人も真剣な表情で見守っている

 六兵衛「おうおうおう、何だよおい、ちっとはまともな球を打てよコラ」
 打つ球打つ球ネットにかかっていらつく六兵衛

 六兵衛「しょんべんが寝そべったみてえな球を打ちやがってこの野郎。しっかりしろい」
 相手の男「ちゃんと打ってますよ。ホイホイホイっとな」
 六兵衛「何でこんなヒョロヒョロ球が返せねえんだこん畜生め」

 男の打つ球はスピードも回転も無いが何故か上手に返球できない。

 長屋の人々1「六兵衛の奴、何やってんだ」
 長屋の人々2「ロク、おいロク、おめえに賭けてんだ、負けたら承知しねえぞ」
 声援にも関わらず、力一杯打った球はまたネット

 イライラがつのった六兵衛はラケットを放り投げる

 六兵衛「やってらんねえ。やってらんねえよこの野郎。こんなの卓球じゃねえ。」
 相手の男「それでは貴方は負けを認めるのですね」
 六兵衛「うるせえ。おめえのやっているのは、そりゃ卓球じゃねえ」
 相手の男「いいえ、これも卓球ですよ。このツブツブのらばあによって相手の回転が・・」
 六兵衛「ぽちゃぽちゃぽちゃぽちゃ腐った魚のような球ばかり、いい加減うんざりなんだよ。黙っていりゃあ調子にのりやがってよ。反則だろそりゃ。」
 相手の男「ほう、反則と言いなさる。具体的にはどのようなるーるに対しての反則だと?」
 六兵衛「何がるーるだ、何が具体的だ。すかしたこといってんじゃねえよこの青びょうたん。スパッと打ってバシッと返すのが卓球ってもんよ。そうじゃなければ卓球とは言えねえじゃねえか。そうだろ、みんな」
 長屋の人々「・・・・・・・・・」
 六兵衛「おい、なんだよおい。おまえらも認めるってのかよ」
 長屋の人々「・・六兵衛。諦めな。おめえの負けだ。るーる上は問題ねえと、ご隠居が言ってらあ」
 六兵衛「なんだとおい、何だよおい。それでいいのかよ。本当にそれで良いのかよ。おめえらそれで良いのかよ。こんなんで卓球と言えるのかよ。やってらんねえ、やってらんねえよ」

 大事なラケットを放り投げたそのままで、卓球台を去る六兵衛。

 六兵衛ガラガラと自宅の引き戸を開ける。
 六兵衛「おう、帰ったぞ」
 お富「いつもえらそうだねあんたは。仕事もしないでどこほっつき歩いていたんだい」
 六兵衛「うるせえなこの古漬け茶漬け。黙って茶でも出しやがれ」
 お富「自分のへそ汁でも飲んでな。どうせ負けたんだろう、この負け狸が」
 六兵衛「負けちゃいねえ、俺は負けちゃいねえはずだ」
 お富「何言ってんだいこの抜け作。試合はねえ、勝ちか負けかしかないんだよ。はずもくそもあるかい」
 六兵衛「おめえに言っても分かんねえだろうけどよ。どらいぶを打っても打っても効かねえし、挙げ句の果てには訳わかんねえ回転で返ってくるし。ありゃあ絶対細工がしてあるに違いねえ。反則だろありゃ」
 お富「あんたねえ、卓球何年やってるんだい。それはつぶだからばあと言って、あんたの打った球の回転が反転して返ってくる、そういう性質のらばあなんだよ」
 六兵衛「ちょっと待て。やけに詳しいなおい。卓球なんかやったことも無いし興味も無い、そう言っていたよな」
 お富、しまった、という顔をする

 六兵衛「まさかお前、経験者とかいうんじゃないだろうな・・」
 お富「ばれちゃあしょうが無い。お前さんには黙っていたかったんだけどねえ」

 
 お富「子鹿 蕪の部 藩代表で全国大会連続出場」
 六兵衛「・・おいおい」

 お富「全国寺子屋杯べすと16」
 六兵衛「・・まさか」

 お富「夏期将軍記念杯 3期連続決勝進出」
 六兵衛「・・・お富」

 お富「お江戸御前試合しんぐるす2回 だぶるす3回優勝」
 六兵衛「・・お前」

 お富「万国卓球展覧会団体戦 しんぐるす だぶるす 合計3つの金賞牌」
 六兵衛「・・・信じられねえ」

 お富「誰が呼んだか、ミスター卓球とはあたいのことさ」
 六兵衛「男かよ」