いつもの卓球教室でのこと。
 最後の30分間はゲーム練習となった。 
 4人一組になり総当たりで試合形式の練習をするのだ。
 適当に分けられたグループの中に、かなり高齢の男性がいた。
 ここでは仮にNさんとする。
 元々70歳くらいが平均年齢の教室なのだが、Nさんはちょっと不安になるくらいの外見の方だった。
 後から思い返してみたら、何回か打ったことのあるのだが、その時はすっかり忘れていた。
 
 最初は女性と試合をして、とりあえず勝ち。
 次は勝った人同士の試合なので、Nさんの対戦相手である女性と打つのかと思っていたら、勝ったのはNさんだった。
 意外な結果に驚きながら、早速試合開始。
 強く打ちすぎないようにしようとか、サーブは単純なのにしようとか、いらぬ気遣いばかり考えていたら、あっという間に試合が進み、いつのまにか0対10で私が負けている。
 サーブはほとんどバック前で、下回転のような上回転のような球が来る。
 ツッツキをすると浮くので上回転なのだろうが、下回転のように見えるのでたいていレシーブミスをする。何とか返しても厳しく打たれて、だんだんと後方に下げられ、最後はコースをつかれて終わり。
 なんか普通に上手いよNさん。
 まさか1点も入らないまま終わってしまうのだろうか。
 練習とはいえ焦ってくる。
 そして運命の一球。
 Nさんのサーブがネットミスで1対10。
 辛くもラブゲームは免れたのだが、そこで私ははっと気がついた。

 これか!
 これが噂の謎マナー、暗黙の了解というやつか。
 こんなの、嬉しくなんか、ちっとも、
 いや、
 どうなんだろう。
 本当にミスしたのかもしれないし、とりあえず1点入ってホッとしたのは事実だ。
 あまりにもさりげなかったので違和感は無かった。
 試合慣れしているというか、さらりと流してすぐにサーブの構えをしている。
 外見で判断してはいけなかったのだ。
 卓球教室でも上位に位置する強者だったのだ、あのじ、お方は。
 
 
 当然のようにこのゲームを落とした私は、次のゲームは情け容赦なく強打を打っ(てはオーバー)、えげつないサーブをフォアにバックに(ミス連発)の大活躍をして、取ったり取られたりの拮抗した好勝負を、around80のNさんと繰り広げ、10対10からデュースに突入。
 盛り上がる観客の歓声(の幻聴)を背中に受けて、11対11,12対12、13対13、最後は14対14となり、お互い体力の限界を感じながらラケットを振り続けた。
 そして最後は2連続得点のNさんが勝利を収め、潔く負けを認めた私は自ら歩み寄り、右手を差し出した。
 「熱い試合、ありがとうございます。」
 と言ったような言わなかったような・・

 それにしても、ある程度年を召した方で日ペン使いは本当に上手な人が多い。
 単純な球の速さや威力はこちらが上でも、総合的な卓球力ではたいてい負ける。

 目標とする平日昼間の体育館の帝王の座は、まだまだ遠いなと思った。