場面その1・・長屋に面した通りに置かれた卓球台。周りに男共が集まって世間話の真っ最中

男その1「なんだなんだおめえ、また家おんだされたのか」
男その2「うるせえべらんめえ、大きなお世話だ。と言いてえところだがよ、おれっちのかかあときたら、卓球で遊んでないでもっと稼いでこいだとかそんな暇があったらガキの面倒見ろだとか、ホント理解ってもんがねえんだよなあ、卓球によ。」
男その3「そりゃどこのかかあも言うこた同じよ。女にゃ理解できねえのよ、卓球の魅力ってもんは」
男その2「あいつらは食いもんと蛇兄図のこんさあとしか興味ねえからな」
男共「違えねえや」
男その1「その点おめえは良いよな六兵衛」
六兵衛「 あん?」

浮かない顔の六兵衛

男その2「きいたぞロク、おめえのかかあ、経験者だったっていうじゃねえか」
男その3「羨ましいなおい、練習し放題じゃねえか」
六兵衛「あー、 そうだなあ」

煮え切らない表情の六兵衛に対して不審がる男共

男その1「どうしたロク、あれほど練習が出来るって喜んでいたじゃねえか」
六兵衛「うーん、まあ、なあ、最初は俺もそう思っていたんだけどなあ」



場面その2・・六兵衛の家
六兵衛「おう、帰ったぞ」
お富「帰ったじゃないよ。遅いじゃないのさ」
六兵衛「いや仕事が長引いて帰れなくってよ」
お富「 仕事だって言えば済むと思っているなら大間違いだからね。さ、練習するよ。遅れた分取り戻さなきゃね」
六兵衛「これから練習するのかい」
お富「当たり前さね。お前さんがやりたいって言ったんだからね。さっさと用意しな。」
六兵衛「ああ、分かってるよ」
お富「まさか練習が嫌だって言うんじゃないだろうね。 こっちだって色々忙しいのに付き合っているんだからね、感謝して欲しいよ全く」
六兵衛「だから分かっているって言ってんだろ、うるせえな」

声を荒げるがいつもの元気が無い六兵衛。



場面その3・・・寄り合い所の卓球部屋

たすき掛けにしたお富が次々と球を打つ
一生懸命返球していた六兵衛だが、すでに息が上がっている

お富「おら、遅い! 飛びつけ、コラ! 手だけで打つんじゃ無いよこの唐変木」
六兵衛「ハアハア、ちょっと待ってくれ、息が上がって・・」
お富「休むなオラ。いつもの元気はどうしたコラ。江戸一番の卓球ぷれえやあになるってほざいていたのはでまかせかこの」
六兵衛「そう言ったっておめえ、こう激しく打たれちゃ体がもたねえ」
お富「打ちやすい球を打ったってねえ、練習にならないんだよ腐れ河童。ぱくぱくぱくぱく息継ぎばかりしてじゃないよ。」
六兵衛「なんだとこの野郎、誰が腐れ、ハアハア、河童、ハアハア」
お富「なんだって?聞こえないよ。ほら、いつまで休んでんだい。卓球好きなんだろ。もっと楽しそうにやりな。辛気臭い顔してさ。」

六兵衛「なんか殺気がこもってねえか」

お富「オラ右前、オラ左前、足が動いていない、手打ちだ、オラ後ろがら空き、下がるなこの破れ提灯」

六兵衛「やべえ、殺される」

ますますお富の打つ球のスピードが上がり、あまりの速さに六兵衛のラケットにかすりもしなくなる。

六兵衛「俺を殺すつもりか、ウワッ、イテッ、こん畜生、当たりゃしねえ、痛い、痛いってんだよ、やめろ、やめてくれ、やめてくれえええ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



場面その4・・・六兵衛の家
汗でびっしょりの寝起きの六兵衛
六兵衛「ええええ・・・・・・・・・・・・・・。何だ、夢か。そうだよなあ、お富の奴が経験者とか、そんなこたあ有る訳ねえんだ。何だよミスター卓球とか。笑っちまあ。おう、お富、今起きたぜ」

台所で朝げの準備をしているお富
お富「なんだい、珍しく早起きだね。今日は仕事も無いんだろ。卓球でも行くのかい?」
六兵衛「おうよ、いや、そうだなあ、久し振りに買い物にでも行くか?買いてえへああくせさりいがあるって言ってたよな」
お富「珍しいねえ、どういう風の吹き回しだい」
六兵衛「まあ、たまにはよ」

照れる六兵衛に優しく微笑むお富

お富「買い物もいいけどさ、もう予約しちまったんだよね」
六兵衛「何だよ、蛇兄図のこんさあとか?歌舞伎か?」

お富「蛇兄図?歌舞伎?卓球場の予約に決まってんだろうが!」