場面その1・・買い物客で賑わっている鍋島横町

 日差しの強い往来を一人歩く六兵衛
 左右の店を冷やかしながら、楽しげに歩いている
 「なんでえなんでえ、流行病で景気が悪いなんてぬかしやがって源三の奴、たいそうな賑わいじゃねえか」
 一杯ひっかけているのかご機嫌な様子
 ふと足を止めて、店の暖簾をしげしげと眺める
 六兵衛「南蛮卓球用品あつかって〼 馬煮悪商会 うまにあく? まにあく? まあいいや、南蛮卓球用品の店たあ面白いね。おう、ごめんよ」

 場面その2・・店内

 店主「いらっしゃい、どうぞどうぞお入り下さい」
 しげしげと店内を見回す六兵衛
 六兵衛「なんだこりゃ、見たことねえラバーやラケットばかりありやがるな」
 店主「そうでしょそうでしょ、そんじょそこらじゃ手に入りませんよ」
 六兵衛「そりゃいいけどよ、こりゃ何て読むんだ?」
 店主「お、お目が高い。それは今人気の独逸らばあ、ぶるうふぁいやあじぇいぴいぜろわんたあぼ、ですよ。」
 六兵衛「ぶるうじぇいぴい、まあいいや。その横のは何て読むんだ」
 店主「へきさあぱわあぐりっぷえすえふえっくす、これも人気があるんですよね」
 六兵衛「へきさぱわあ?いいかげん長えな。読んでいるだけで疲れちまう」
 店主「それならこれはどうです。お隣清国で大人気のねばねばラバー狂猫」
 六兵衛「狂猫かあ、そいつは三軒隣の政吉の奴が使っていたなあ。ありゃ全然弾まねえんだよな。おい、もっと変わった奴はねえのか?」
 店主「お客さん、実はとっておきのがありましてね」
 六兵衛「何だ、あるならさっさと出せよ」

 店の奥から風呂敷に包まれたものを大事そうに持ってくる
 店主「 他言無用にお願いしますよ」

 六兵衛「嫌にもったいぶるな。気になるじゃねえか」
 店主「いえね、このラバー、元々は普通の狂猫だったんですよ。店の棚に並べていた普通のね」
 六兵衛「ほうほう」
 店主「 1枚2枚とぽつぽつ売れてはいくんですけど、どうしても最後の何枚かが残ってしまいまして」
 六兵衛「まあ、よくある話だな」
 店主「そうなんですよ。それでそのまま忘れてしまっていたんです。 ところがある夜売上げを勘定していたところ、狂猫の置いてあるあたりから変な気配がしてきまして」
 六兵衛「何だよ、怖えな」
 店主「 ふと気になって後ろを振り向くと、パッケージから猫の首が長ーく伸びていまして、脇に置いてある行灯の油をぺろぺろと」
 六兵衛「うわ、おっかねえ。化け猫じゃねえか」
 店主「 そりゃあもう恐ろしいのなんの。恥ずかしながら気がつくと私気を失ってまして」
 六兵衛「そりゃしょうがねえ。そりゃしょうがねえよ。 取って食われなかっただけ良かったじゃねえか」

 店主の肩を叩く六兵衛

 店主「ありがとうございます。それででしてね、気がつくと朝になってまして、慌てて狂猫のパッケージを見たんですけど、どう見ても今までと同じ何も変わっていないそのままだったんです」
 六兵衛「 不思議なこともあるもんだな・・・まさかお前、その風呂敷の中にあるのが・・」
 店主「 そうです。その狂猫です。見ます?」

 怯えて後ずさる六兵衛

 六兵衛「いや、怖いわけじゃねえけど、やめとくわ。怖いわけじゃねえけど」
 店主「そうですか。残念です。 そうそう、実はこの話をあるお侍に話したら、そのお侍さんおもしろがって買っていったんですよ」
 六兵衛 「物好きもいるもんだな」
 店主「 それで早速昨日の御前試合で使ったらしいんですけど、普通の狂猫より良く弾むし回転もかかると大変喜んでまして。どうもほんの少し、ラバーのスポンジが油を吸って膨らんでいるとかいないとか。化け猫が舐めた行灯の油に違いないと笑ってましたね。さてお客さんどうします?これがその狂猫の最後の1枚なんですけど」
 六兵衛「買った!」 

 場面その3・・試合直前

 審判「それではラケット交換して下さい」
 六兵衛「あいよ、ほれじっくり見やがれ」
 相手選手「ふむふむ、うん? ロクさん、あんたのラバーやけに反り返っているけど、まさかあんた使っちゃイケないものを使ってるんじゃあ無いだろうね」
 六兵衛「何だとこの野郎、俺がいかさまをしてるっていうのか。ふざけるんじゃねえ」
 相手選手「審判、これを見てくれ。このラバーは違反接着剤か違反増強剤を塗っている疑いがある。調べてくれ」
 六兵衛「なんだと、ちょっと待ってくれ。これは違反なんかじゃねえ。ちょっと油が」
 審判「油?」
 六兵衛「だから、違反増強剤とかそういうあれじゃなくて」
 審判「・・」
 六兵衛「首を伸ばした狂猫のお化けがよ」
 審判「・・」
 六兵衛「こう、行灯の油をペロペロ舐めて」
 審判「・・」
 六兵衛「その油がラバーのスポンジにすうっと染みこんで」
 審判「・・」
 六兵衛「それで良く弾んで回転がかかるようになるっていう」
 審判「はい失格」