いつもの路地裏に立てられた立て札を囲んで男達がざわめいている
ラケットを手にぶらりとやってきた六兵衛が顔見知りの男に声をかける
六兵衛「おう、どうした。練習やらねえのか」
男その1「なんだロクか。脅かすねい。いいからこれを読んでみろ」
六兵衛「読めったっておめえらが邪魔で見えねえじゃねえかどけよこの野郎」
人垣に無理矢理入り込み立て札を見上げる六兵衛
六兵衛「えーなになに、近頃新型孤路哭病流行につき市中での卓球を禁ず、って何だこいつは」
男その1「馬鹿だなロク、つまり卓球はするなってことよ」
六兵衛「馬鹿にすんじゃねえ、はっ倒すぞ。しかし練習できねえのは困ったな」
男その1「全くお上もなに考えているんだか。卓球だけ禁じたってしょうがねえだろう」
六兵衛「出来ねえと思うと尚更やりてえな。こっそりやりゃあバレねえんじゃねえか」
男その1「ロク、おめえも考え無しだな。それこそバレたら。ブルブル、考えたくもねえな」
六兵衛「畜生、どうにもならねえのかよ。」
諦めきれない六兵衛。
そんな六兵衛に別の男が声をかける
男その2「いつまでも愚痴ってばかりいてもしょうがねえだろう。どうだい、ここは一つ卓球以外のすぽおつをやってみるってのは」
六兵衛「おうそれだそれ。何も卓球だけがすぽおつじゃねえしな。他にはどんなすぽおつがあるんだい」
男その2「例えばよ、若い娘っこに人気のばどみんとん、なんてのはどうだい」
六兵衛「みんとん?聞いた事ねえな」
男その2「知らねえのか。こうラケットの中をくりぬいて蜘蛛の巣みてえな糸を貼ってよ、羽をつけたピンポン球を打ち合う、あれよ 」
六兵衛「あれかあ。俺はてっきり蝉でも捕っているもんだとばっかり。いまいちぐっとこねえな」
男その2「そうかい、ばどみんとんはダメかい。それならごるふはどうだ。裏のご隠居が夢中らしい」
六兵衛「ごるふ?ああごるふね。あのゴボウみたいなヒョロヒョロした棒切れを振り回す。近寄ったら頭をかち割られそうになったぜあのじじい。どうも畑を耕しているみたいでぴんとこねえんだよな」
男その2「色々うるさいね。それならどんなすぽおつなら良いんだね」
六兵衛「そうさなあ、やっぱり大勢でやるのは好きじゃねえから一人で出来る方がいいなあ」
男その2「じょぎんぐや遠泳か」
六兵衛「かといって黙々と走ったり泳いだりするのも性に合わねえ。1対1、男同士の対決、ぐっとくるね」
男その2「柔術とか剣術か」
六兵衛「おっとっと、痛いのはごめんだぜ。怪我でもしたらおまんまの食い上げだ、かかあに殺されちまう。江戸っ子は気が短えからよ、相手が近いと喧嘩になっちまう。10尺くらいは離れたほうがいいだろうな」
男その2「近頃蝦夷で人気の野球か」
六兵衛「野球ってあれか、石だか岩だか硬え物を投げつけて、もっと硬え鉄棒でやりかえすやつか。あんな物騒なのは勘弁してくれ」
男その2「段々相手をするのが面倒くさくなってきたね。どうやらお前さんの望み通りのは無さそうだ」
六兵衛「いや、ある。あるはずよ。何だっけなあ。喉まで出かかってるんだがなあ」
男その2「気になるね」
六兵衛「お互い10尺離れてよ」
男その2「ほうほう」
六兵衛「木の板に柔らかいゴムを貼ってよ」
男その2「ふんふん」
六兵衛「小せえ柔らかい球を打ち合うわけだ」
男その2「ん?」
六兵衛「相手が取れなかったらこちらの勝ち。こっちが取れなかったら相手の勝ち」
男その2「何だいそりゃ、まさか卓球じゃないだろうね」
六兵衛「卓球! 違う、卓球じゃねえ。腰ぐらいの高さのテーブルでよ、真ん中に網を張って両脇から打ち合うのよ。テーブル、そうだ! 思い出した」
六兵衛「That's table tennis.」
男その2「良い発音だなあ。違う、そりゃ卓球だ」
六兵衛「違うかこん畜生、ほらポンポン打ち合う、そうだ! 思い出した」
六兵衛「That's ping-pong.」
男その2「顔まで異人っぽくする必要あるのかい。同じだよ。それも卓球」
六兵衛「そうか同じかこの野郎、上手く行かねえな。待てよ、そんなこたあお上には分かるはずもねえ。こりゃ卓球じゃねえピンポンだって言えば良いんじゃねえか。こりゃ良いこと思いついた。こうしちゃいられねえ。ちょっとピンポンしてくらあ」
男その2「もう行っちまった。しらねえぞ俺は」
いつもの長屋通りの路地裏
卓球台の前で六兵衛が叫んでいる
六兵衛「おーい、おめえら、ピンポンやろうぜピンポン」
いぶかしげに男が近づいてくる
男その3「ピンポンたあ何だい」
六兵衛「おう、卓球は禁止だけどよ、ピンポンなら誰も文句は言わねえだろ。まあやってることは卓球と同じなんだがよ」
男その3「卓球か。ありゃもう誰もやらねえな。今人気なのは別のすぽおつさね」
ラケットを手にぶらりとやってきた六兵衛が顔見知りの男に声をかける
六兵衛「おう、どうした。練習やらねえのか」
男その1「なんだロクか。脅かすねい。いいからこれを読んでみろ」
六兵衛「読めったっておめえらが邪魔で見えねえじゃねえかどけよこの野郎」
人垣に無理矢理入り込み立て札を見上げる六兵衛
六兵衛「えーなになに、近頃新型孤路哭病流行につき市中での卓球を禁ず、って何だこいつは」
男その1「馬鹿だなロク、つまり卓球はするなってことよ」
六兵衛「馬鹿にすんじゃねえ、はっ倒すぞ。しかし練習できねえのは困ったな」
男その1「全くお上もなに考えているんだか。卓球だけ禁じたってしょうがねえだろう」
六兵衛「出来ねえと思うと尚更やりてえな。こっそりやりゃあバレねえんじゃねえか」
男その1「ロク、おめえも考え無しだな。それこそバレたら。ブルブル、考えたくもねえな」
六兵衛「畜生、どうにもならねえのかよ。」
諦めきれない六兵衛。
そんな六兵衛に別の男が声をかける
男その2「いつまでも愚痴ってばかりいてもしょうがねえだろう。どうだい、ここは一つ卓球以外のすぽおつをやってみるってのは」
六兵衛「おうそれだそれ。何も卓球だけがすぽおつじゃねえしな。他にはどんなすぽおつがあるんだい」
男その2「例えばよ、若い娘っこに人気のばどみんとん、なんてのはどうだい」
六兵衛「みんとん?聞いた事ねえな」
男その2「知らねえのか。こうラケットの中をくりぬいて蜘蛛の巣みてえな糸を貼ってよ、羽をつけたピンポン球を打ち合う、あれよ 」
六兵衛「あれかあ。俺はてっきり蝉でも捕っているもんだとばっかり。いまいちぐっとこねえな」
男その2「そうかい、ばどみんとんはダメかい。それならごるふはどうだ。裏のご隠居が夢中らしい」
六兵衛「ごるふ?ああごるふね。あのゴボウみたいなヒョロヒョロした棒切れを振り回す。近寄ったら頭をかち割られそうになったぜあのじじい。どうも畑を耕しているみたいでぴんとこねえんだよな」
男その2「色々うるさいね。それならどんなすぽおつなら良いんだね」
六兵衛「そうさなあ、やっぱり大勢でやるのは好きじゃねえから一人で出来る方がいいなあ」
男その2「じょぎんぐや遠泳か」
六兵衛「かといって黙々と走ったり泳いだりするのも性に合わねえ。1対1、男同士の対決、ぐっとくるね」
男その2「柔術とか剣術か」
六兵衛「おっとっと、痛いのはごめんだぜ。怪我でもしたらおまんまの食い上げだ、かかあに殺されちまう。江戸っ子は気が短えからよ、相手が近いと喧嘩になっちまう。10尺くらいは離れたほうがいいだろうな」
男その2「近頃蝦夷で人気の野球か」
六兵衛「野球ってあれか、石だか岩だか硬え物を投げつけて、もっと硬え鉄棒でやりかえすやつか。あんな物騒なのは勘弁してくれ」
男その2「段々相手をするのが面倒くさくなってきたね。どうやらお前さんの望み通りのは無さそうだ」
六兵衛「いや、ある。あるはずよ。何だっけなあ。喉まで出かかってるんだがなあ」
男その2「気になるね」
六兵衛「お互い10尺離れてよ」
男その2「ほうほう」
六兵衛「木の板に柔らかいゴムを貼ってよ」
男その2「ふんふん」
六兵衛「小せえ柔らかい球を打ち合うわけだ」
男その2「ん?」
六兵衛「相手が取れなかったらこちらの勝ち。こっちが取れなかったら相手の勝ち」
男その2「何だいそりゃ、まさか卓球じゃないだろうね」
六兵衛「卓球! 違う、卓球じゃねえ。腰ぐらいの高さのテーブルでよ、真ん中に網を張って両脇から打ち合うのよ。テーブル、そうだ! 思い出した」
六兵衛「That's table tennis.」
男その2「良い発音だなあ。違う、そりゃ卓球だ」
六兵衛「違うかこん畜生、ほらポンポン打ち合う、そうだ! 思い出した」
六兵衛「That's ping-pong.」
男その2「顔まで異人っぽくする必要あるのかい。同じだよ。それも卓球」
六兵衛「そうか同じかこの野郎、上手く行かねえな。待てよ、そんなこたあお上には分かるはずもねえ。こりゃ卓球じゃねえピンポンだって言えば良いんじゃねえか。こりゃ良いこと思いついた。こうしちゃいられねえ。ちょっとピンポンしてくらあ」
男その2「もう行っちまった。しらねえぞ俺は」
いつもの長屋通りの路地裏
卓球台の前で六兵衛が叫んでいる
六兵衛「おーい、おめえら、ピンポンやろうぜピンポン」
いぶかしげに男が近づいてくる
男その3「ピンポンたあ何だい」
六兵衛「おう、卓球は禁止だけどよ、ピンポンなら誰も文句は言わねえだろ。まあやってることは卓球と同じなんだがよ」
男その3「卓球か。ありゃもう誰もやらねえな。今人気なのは別のすぽおつさね」
六兵衛「何でい」
男その3「那是乒乓球」
六兵衛「………そりゃ卓球だろ!」
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