卓球迷宮地下1階

~貼ったり はがしたり また貼ったり~

カテゴリ:卓球個人事情 > お江戸卓球シリーズ

えー、病は気からと申しますが、今回の新型コロナばかりはそうはいかないようでして、どんなに気合いを入れてもかかるときはかかる、かからないときはかからない。そもそもかかっているのかいないのか、それすらはっきりしないという、真に困ったことでございます。
ゴホンと咳すりゃ新型コロナ、熱でふらっとしたら新型コロナ、なんでもかんでも新型コロナに思えてくるんですな。

「 どうした、顔色悪いな」
「朝起きたら頭が痛くて吐き気がします。新型コロナに間違いありません」
「君昨日相当飲んでたよね?二日酔いだよね?」
「やっぱりコロナビールがマズかったようです」

なんて会話がそこかしこでね、交わされているようでありますな。
さて、こういう流行病もね、決して今だけの物ではありません。当然昔から姿形を変えて何度も庶民の暮らしを脅かしていたんですね。もちろん同じようなことは、江戸の昔にも、ありましたよ。

「六兵衛、最近あっちのほうはどうだい」
「分かりきったこと聞くねえ。全然ダメよ全ダメよ。卓球のタの字もありゃしねえ」
「おめえの所もそうかい。流行病で外出禁止。卓球なんかできねえよなあ」

流行病の最初のころは、何だかんだと練習できてはいたものの、ここまで来ちゃあどうにもならない。
卓球好きの六兵衛も、この頃は諦めて大人しくしていたようです。

「あーああ、卓球してえなあ」
なんてぼやきながら狭い長屋の一室でラケットを撫でるのが精一杯。 
その内撫でているだけでは我慢できなくなってきた六兵衛、どこからかピンポン球を取り出し、カンカンカンカン、ラケットの上で球突きを始めました。

「思いっきり打ちてえなあ、こうスマッシュをドカーンとよ」
当てる振りしてフルスイングしたつもりがピンポン球に見事命中。球は壁に向かってすっ飛んでいきました。
バシーンと大きな音を立てて跳ね返ります。何しろ長屋の薄い壁です。厚さなんて紙みたいなもんです。近所迷惑にもほどがあるってもんです。
ところが当の六兵衛は落ち着いています。落ち着いているのは理由があって、隣の孫四郞一家が引っ越してからだーれも住んでいないのを、六兵衛はもちろん知っていたからなんですね。
「俺の必殺ドライブを食らいやがれ」
なんて言いながら遠慮無くバシバシ壁に向かって打ち始めました。
「おらフォア前ががら空きだぜ。お次はミドル、そしてもう一度フォアだ」
ぶつぶつ呟きながら、しばらく執念深く打ち続けていたら、おかしな事に気がつきました。

六兵衛が打つ。
球が壁にぶつかって跳ね返る。
球が戻ってくる。

その壁にぶつかる音のちょっと後に、コン、といかにもラケットで打ったような音がするような。
コンと打てばカン
バシッと打てばコンッ
まるでラリーでもしているかのような絶妙なタイミングで、壁の向こうから聞こえてくる音。
最初は気味悪がっていた六兵衛も、すっかり調子が出てきて、壁を相手にサーブ、レシーブ、対下回転打ちドライブ、などなど、いつしか試合をやっている気分になって、勝手にスコアまでつけ出す始末。
「よしこれでテン ナイン。次が決まれば俺の勝ちよ。そりゃ、得意のYGサーブとくらあ」

コンっと壁の向こうから

パシーンッと六兵衛

コンっと壁の向こうから

バシンと六兵衛

大げさなフォームでカーブドライブを壁に向かって打ち込むと、それっきり壁の向こうからの音は途絶えました。
「やったぜ横入れドライブ! エッジボールだが得点は得点だぜ。と言うわけでイレブン ナインで俺の勝ち。ざまーみろい。」

壁に向かって言い放つと、満足げに畳に横たわってしまいました。
息を整えながらなおも横たわっていると、ドン、ドンと壁を叩く音が聞こえてくるじゃありませんか。
誰もいないはずの隣の部屋からですよ。
ちょっぴり気味悪くなってきた六兵衛でしたが、そこは見栄っ張りの江戸っ子。
「うるせえ、俺の勝ちだ。文句有るなら直接言いやがれ」

そうするとドンドンという音はぴたりとやんで、かわりにぼそぼそとささやくような声が。

「小さくて聞こえねえ」

「・・・・・」

「聞こえねえって言ってんだろ。大きな声で言え」

するとみるみるうちに視界が暗くなり、真冬のように気温が下がり始めたんですね。
ブルブル震えながらキョロキョロ辺りを見回していると、追い打ちをかけるよに、地の底から響くような低ーい声が壁の向こうから

「・・・今のはサイドボールだぞ」





 

 いつもの路地裏に立てられた立て札を囲んで男達がざわめいている
 ラケットを手にぶらりとやってきた六兵衛が顔見知りの男に声をかける
 六兵衛「おう、どうした。練習やらねえのか」
 男その1「なんだロクか。脅かすねい。いいからこれを読んでみろ」
 六兵衛「読めったっておめえらが邪魔で見えねえじゃねえかどけよこの野郎」
 人垣に無理矢理入り込み立て札を見上げる六兵衛
 六兵衛「えーなになに、近頃新型孤路哭病流行につき市中での卓球を禁ず、って何だこいつは」
 男その1「馬鹿だなロク、つまり卓球はするなってことよ」
 六兵衛「馬鹿にすんじゃねえ、はっ倒すぞ。しかし練習できねえのは困ったな」
 男その1「全くお上もなに考えているんだか。卓球だけ禁じたってしょうがねえだろう」
 六兵衛「出来ねえと思うと尚更やりてえな。こっそりやりゃあバレねえんじゃねえか」
 男その1「ロク、おめえも考え無しだな。それこそバレたら。ブルブル、考えたくもねえな」
 六兵衛「畜生、どうにもならねえのかよ。」

 諦めきれない六兵衛。
 そんな六兵衛に別の男が声をかける
  
 男その2「いつまでも愚痴ってばかりいてもしょうがねえだろう。どうだい、ここは一つ卓球以外のすぽおつをやってみるってのは」
 六兵衛「おうそれだそれ。何も卓球だけがすぽおつじゃねえしな。他にはどんなすぽおつがあるんだい」
 男その2「例えばよ、若い娘っこに人気のばどみんとん、なんてのはどうだい」
 六兵衛「みんとん?聞いた事ねえな」
 男その2「知らねえのか。こうラケットの中をくりぬいて蜘蛛の巣みてえな糸を貼ってよ、羽をつけたピンポン球を打ち合う、あれよ 」
 六兵衛「あれかあ。俺はてっきり蝉でも捕っているもんだとばっかり。いまいちぐっとこねえな」 
 男その2「そうかい、ばどみんとんはダメかい。それならごるふはどうだ。裏のご隠居が夢中らしい」
 六兵衛「ごるふ?ああごるふね。あのゴボウみたいなヒョロヒョロした棒切れを振り回す。近寄ったら頭をかち割られそうになったぜあのじじい。どうも畑を耕しているみたいでぴんとこねえんだよな」
 男その2「色々うるさいね。それならどんなすぽおつなら良いんだね」
 六兵衛「そうさなあ、やっぱり大勢でやるのは好きじゃねえから一人で出来る方がいいなあ」
 男その2「じょぎんぐや遠泳か」
 六兵衛「かといって黙々と走ったり泳いだりするのも性に合わねえ。1対1、男同士の対決、ぐっとくるね」
 男その2「柔術とか剣術か」
 六兵衛「おっとっと、痛いのはごめんだぜ。怪我でもしたらおまんまの食い上げだ、かかあに殺されちまう。江戸っ子は気が短えからよ、相手が近いと喧嘩になっちまう。10尺くらいは離れたほうがいいだろうな」
 男その2「近頃蝦夷で人気の野球か」
 六兵衛「野球ってあれか、石だか岩だか硬え物を投げつけて、もっと硬え鉄棒でやりかえすやつか。あんな物騒なのは勘弁してくれ」
 男その2「段々相手をするのが面倒くさくなってきたね。どうやらお前さんの望み通りのは無さそうだ」
 六兵衛「いや、ある。あるはずよ。何だっけなあ。喉まで出かかってるんだがなあ」
 男その2「気になるね」
 六兵衛「お互い10尺離れてよ」
 男その2「ほうほう」
 六兵衛「木の板に柔らかいゴムを貼ってよ」
 男その2「ふんふん」
 六兵衛「小せえ柔らかい球を打ち合うわけだ」
 男その2「ん?」
 六兵衛「相手が取れなかったらこちらの勝ち。こっちが取れなかったら相手の勝ち」
 男その2「何だいそりゃ、まさか卓球じゃないだろうね」
 六兵衛「卓球! 違う、卓球じゃねえ。腰ぐらいの高さのテーブルでよ、真ん中に網を張って両脇から打ち合うのよ。テーブル、そうだ!  思い出した」

 六兵衛「That's table tennis.」
 男その2「良い発音だなあ。違う、そりゃ卓球だ」

 六兵衛「違うかこん畜生、ほらポンポン打ち合う、そうだ! 思い出した」

 六兵衛「That's ping-pong.」
 男その2「顔まで異人っぽくする必要あるのかい。同じだよ。それも卓球」
 
 六兵衛「そうか同じかこの野郎、上手く行かねえな。待てよ、そんなこたあお上には分かるはずもねえ。こりゃ卓球じゃねえピンポンだって言えば良いんじゃねえか。こりゃ良いこと思いついた。こうしちゃいられねえ。ちょっとピンポンしてくらあ」
 男その2「もう行っちまった。しらねえぞ俺は」



 いつもの長屋通りの路地裏
 卓球台の前で六兵衛が叫んでいる
 六兵衛「おーい、おめえら、ピンポンやろうぜピンポン」
 いぶかしげに男が近づいてくる
 男その3「ピンポンたあ何だい」
 六兵衛「おう、卓球は禁止だけどよ、ピンポンなら誰も文句は言わねえだろ。まあやってることは卓球と同じなんだがよ」
 男その3「卓球か。ありゃもう誰もやらねえな。今人気なのは別のすぽおつさね」
    六兵衛「何でい」

    男その3「那是乒乓球」
    六兵衛「………そりゃ卓球だろ!」
 
  

 場面その1・・買い物客で賑わっている鍋島横町

 日差しの強い往来を一人歩く六兵衛
 左右の店を冷やかしながら、楽しげに歩いている
 「なんでえなんでえ、流行病で景気が悪いなんてぬかしやがって源三の奴、たいそうな賑わいじゃねえか」
 一杯ひっかけているのかご機嫌な様子
 ふと足を止めて、店の暖簾をしげしげと眺める
 六兵衛「南蛮卓球用品あつかって〼 馬煮悪商会 うまにあく? まにあく? まあいいや、南蛮卓球用品の店たあ面白いね。おう、ごめんよ」

 場面その2・・店内

 店主「いらっしゃい、どうぞどうぞお入り下さい」
 しげしげと店内を見回す六兵衛
 六兵衛「なんだこりゃ、見たことねえラバーやラケットばかりありやがるな」
 店主「そうでしょそうでしょ、そんじょそこらじゃ手に入りませんよ」
 六兵衛「そりゃいいけどよ、こりゃ何て読むんだ?」
 店主「お、お目が高い。それは今人気の独逸らばあ、ぶるうふぁいやあじぇいぴいぜろわんたあぼ、ですよ。」
 六兵衛「ぶるうじぇいぴい、まあいいや。その横のは何て読むんだ」
 店主「へきさあぱわあぐりっぷえすえふえっくす、これも人気があるんですよね」
 六兵衛「へきさぱわあ?いいかげん長えな。読んでいるだけで疲れちまう」
 店主「それならこれはどうです。お隣清国で大人気のねばねばラバー狂猫」
 六兵衛「狂猫かあ、そいつは三軒隣の政吉の奴が使っていたなあ。ありゃ全然弾まねえんだよな。おい、もっと変わった奴はねえのか?」
 店主「お客さん、実はとっておきのがありましてね」
 六兵衛「何だ、あるならさっさと出せよ」

 店の奥から風呂敷に包まれたものを大事そうに持ってくる
 店主「 他言無用にお願いしますよ」

 六兵衛「嫌にもったいぶるな。気になるじゃねえか」
 店主「いえね、このラバー、元々は普通の狂猫だったんですよ。店の棚に並べていた普通のね」
 六兵衛「ほうほう」
 店主「 1枚2枚とぽつぽつ売れてはいくんですけど、どうしても最後の何枚かが残ってしまいまして」
 六兵衛「まあ、よくある話だな」
 店主「そうなんですよ。それでそのまま忘れてしまっていたんです。 ところがある夜売上げを勘定していたところ、狂猫の置いてあるあたりから変な気配がしてきまして」
 六兵衛「何だよ、怖えな」
 店主「 ふと気になって後ろを振り向くと、パッケージから猫の首が長ーく伸びていまして、脇に置いてある行灯の油をぺろぺろと」
 六兵衛「うわ、おっかねえ。化け猫じゃねえか」
 店主「 そりゃあもう恐ろしいのなんの。恥ずかしながら気がつくと私気を失ってまして」
 六兵衛「そりゃしょうがねえ。そりゃしょうがねえよ。 取って食われなかっただけ良かったじゃねえか」

 店主の肩を叩く六兵衛

 店主「ありがとうございます。それででしてね、気がつくと朝になってまして、慌てて狂猫のパッケージを見たんですけど、どう見ても今までと同じ何も変わっていないそのままだったんです」
 六兵衛「 不思議なこともあるもんだな・・・まさかお前、その風呂敷の中にあるのが・・」
 店主「 そうです。その狂猫です。見ます?」

 怯えて後ずさる六兵衛

 六兵衛「いや、怖いわけじゃねえけど、やめとくわ。怖いわけじゃねえけど」
 店主「そうですか。残念です。 そうそう、実はこの話をあるお侍に話したら、そのお侍さんおもしろがって買っていったんですよ」
 六兵衛 「物好きもいるもんだな」
 店主「 それで早速昨日の御前試合で使ったらしいんですけど、普通の狂猫より良く弾むし回転もかかると大変喜んでまして。どうもほんの少し、ラバーのスポンジが油を吸って膨らんでいるとかいないとか。化け猫が舐めた行灯の油に違いないと笑ってましたね。さてお客さんどうします?これがその狂猫の最後の1枚なんですけど」
 六兵衛「買った!」 

 場面その3・・試合直前

 審判「それではラケット交換して下さい」
 六兵衛「あいよ、ほれじっくり見やがれ」
 相手選手「ふむふむ、うん? ロクさん、あんたのラバーやけに反り返っているけど、まさかあんた使っちゃイケないものを使ってるんじゃあ無いだろうね」
 六兵衛「何だとこの野郎、俺がいかさまをしてるっていうのか。ふざけるんじゃねえ」
 相手選手「審判、これを見てくれ。このラバーは違反接着剤か違反増強剤を塗っている疑いがある。調べてくれ」
 六兵衛「なんだと、ちょっと待ってくれ。これは違反なんかじゃねえ。ちょっと油が」
 審判「油?」
 六兵衛「だから、違反増強剤とかそういうあれじゃなくて」
 審判「・・」
 六兵衛「首を伸ばした狂猫のお化けがよ」
 審判「・・」
 六兵衛「こう、行灯の油をペロペロ舐めて」
 審判「・・」
 六兵衛「その油がラバーのスポンジにすうっと染みこんで」
 審判「・・」
 六兵衛「それで良く弾んで回転がかかるようになるっていう」
 審判「はい失格」

  



 先日書いた話にはいくつかのパターンのオチを考えていた。
 せっかくなので、ボツになったオチも書いておく。
 元の話を読んだ上で、好きなオチを選んで欲しい。


 パターン1 パロオチ

 場面その4・・・お富「やめろだと?やめるわけないだろ。これはね、ラケット代わりに売られた着物の分」
 六兵衛「ぐは」
 お富「これはピンポン球代わりに割られた卵の分」
 六兵衛「ぼへ」
 お富「そしてこれはヤムチャの分だ!!!!」
 六兵衛「誰だよヤムチャって」 

 
 パターン2 快楽オチ

 はげしく球をぶつけられてうずくまる六兵衛。
 そんな六兵衛に容赦なく球が降り注ぎます。
 激しい痛みを我慢している六兵衛に、今まで味わったこの無い不思議な感覚が芽生えるのでした。
 激痛が倒錯的な快楽へ変わるとき、六兵衛の背中からつま先にかけてぞくぞくするようなエクスタシーが走り抜け
 六兵衛「勝手なナレーション入れるな」

 パターン3 不条理オチ 

 六兵衛「もう体がもたねえ、早くオチを、オチを言ってくれ」
 お富「なんだいオチって。ふざけるんじゃ無いよ。これは現実さね。まあ、もっとも、あんたはどこまでも堕ちていくけどね」
 六兵衛「なにこれすんごく怖い」 
 



場面その1・・長屋に面した通りに置かれた卓球台。周りに男共が集まって世間話の真っ最中

男その1「なんだなんだおめえ、また家おんだされたのか」
男その2「うるせえべらんめえ、大きなお世話だ。と言いてえところだがよ、おれっちのかかあときたら、卓球で遊んでないでもっと稼いでこいだとかそんな暇があったらガキの面倒見ろだとか、ホント理解ってもんがねえんだよなあ、卓球によ。」
男その3「そりゃどこのかかあも言うこた同じよ。女にゃ理解できねえのよ、卓球の魅力ってもんは」
男その2「あいつらは食いもんと蛇兄図のこんさあとしか興味ねえからな」
男共「違えねえや」
男その1「その点おめえは良いよな六兵衛」
六兵衛「 あん?」

浮かない顔の六兵衛

男その2「きいたぞロク、おめえのかかあ、経験者だったっていうじゃねえか」
男その3「羨ましいなおい、練習し放題じゃねえか」
六兵衛「あー、 そうだなあ」

煮え切らない表情の六兵衛に対して不審がる男共

男その1「どうしたロク、あれほど練習が出来るって喜んでいたじゃねえか」
六兵衛「うーん、まあ、なあ、最初は俺もそう思っていたんだけどなあ」



場面その2・・六兵衛の家
六兵衛「おう、帰ったぞ」
お富「帰ったじゃないよ。遅いじゃないのさ」
六兵衛「いや仕事が長引いて帰れなくってよ」
お富「 仕事だって言えば済むと思っているなら大間違いだからね。さ、練習するよ。遅れた分取り戻さなきゃね」
六兵衛「これから練習するのかい」
お富「当たり前さね。お前さんがやりたいって言ったんだからね。さっさと用意しな。」
六兵衛「ああ、分かってるよ」
お富「まさか練習が嫌だって言うんじゃないだろうね。 こっちだって色々忙しいのに付き合っているんだからね、感謝して欲しいよ全く」
六兵衛「だから分かっているって言ってんだろ、うるせえな」

声を荒げるがいつもの元気が無い六兵衛。



場面その3・・・寄り合い所の卓球部屋

たすき掛けにしたお富が次々と球を打つ
一生懸命返球していた六兵衛だが、すでに息が上がっている

お富「おら、遅い! 飛びつけ、コラ! 手だけで打つんじゃ無いよこの唐変木」
六兵衛「ハアハア、ちょっと待ってくれ、息が上がって・・」
お富「休むなオラ。いつもの元気はどうしたコラ。江戸一番の卓球ぷれえやあになるってほざいていたのはでまかせかこの」
六兵衛「そう言ったっておめえ、こう激しく打たれちゃ体がもたねえ」
お富「打ちやすい球を打ったってねえ、練習にならないんだよ腐れ河童。ぱくぱくぱくぱく息継ぎばかりしてじゃないよ。」
六兵衛「なんだとこの野郎、誰が腐れ、ハアハア、河童、ハアハア」
お富「なんだって?聞こえないよ。ほら、いつまで休んでんだい。卓球好きなんだろ。もっと楽しそうにやりな。辛気臭い顔してさ。」

六兵衛「なんか殺気がこもってねえか」

お富「オラ右前、オラ左前、足が動いていない、手打ちだ、オラ後ろがら空き、下がるなこの破れ提灯」

六兵衛「やべえ、殺される」

ますますお富の打つ球のスピードが上がり、あまりの速さに六兵衛のラケットにかすりもしなくなる。

六兵衛「俺を殺すつもりか、ウワッ、イテッ、こん畜生、当たりゃしねえ、痛い、痛いってんだよ、やめろ、やめてくれ、やめてくれえええ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



場面その4・・・六兵衛の家
汗でびっしょりの寝起きの六兵衛
六兵衛「ええええ・・・・・・・・・・・・・・。何だ、夢か。そうだよなあ、お富の奴が経験者とか、そんなこたあ有る訳ねえんだ。何だよミスター卓球とか。笑っちまあ。おう、お富、今起きたぜ」

台所で朝げの準備をしているお富
お富「なんだい、珍しく早起きだね。今日は仕事も無いんだろ。卓球でも行くのかい?」
六兵衛「おうよ、いや、そうだなあ、久し振りに買い物にでも行くか?買いてえへああくせさりいがあるって言ってたよな」
お富「珍しいねえ、どういう風の吹き回しだい」
六兵衛「まあ、たまにはよ」

照れる六兵衛に優しく微笑むお富

お富「買い物もいいけどさ、もう予約しちまったんだよね」
六兵衛「何だよ、蛇兄図のこんさあとか?歌舞伎か?」

お富「蛇兄図?歌舞伎?卓球場の予約に決まってんだろうが!」

 

 長屋通りの路地裏で、卓球台で打ち合う2人と周りをかこむ人垣
 お金を賭けているのか見物人も真剣な表情で見守っている

 六兵衛「おうおうおう、何だよおい、ちっとはまともな球を打てよコラ」
 打つ球打つ球ネットにかかっていらつく六兵衛

 六兵衛「しょんべんが寝そべったみてえな球を打ちやがってこの野郎。しっかりしろい」
 相手の男「ちゃんと打ってますよ。ホイホイホイっとな」
 六兵衛「何でこんなヒョロヒョロ球が返せねえんだこん畜生め」

 男の打つ球はスピードも回転も無いが何故か上手に返球できない。

 長屋の人々1「六兵衛の奴、何やってんだ」
 長屋の人々2「ロク、おいロク、おめえに賭けてんだ、負けたら承知しねえぞ」
 声援にも関わらず、力一杯打った球はまたネット

 イライラがつのった六兵衛はラケットを放り投げる

 六兵衛「やってらんねえ。やってらんねえよこの野郎。こんなの卓球じゃねえ。」
 相手の男「それでは貴方は負けを認めるのですね」
 六兵衛「うるせえ。おめえのやっているのは、そりゃ卓球じゃねえ」
 相手の男「いいえ、これも卓球ですよ。このツブツブのらばあによって相手の回転が・・」
 六兵衛「ぽちゃぽちゃぽちゃぽちゃ腐った魚のような球ばかり、いい加減うんざりなんだよ。黙っていりゃあ調子にのりやがってよ。反則だろそりゃ。」
 相手の男「ほう、反則と言いなさる。具体的にはどのようなるーるに対しての反則だと?」
 六兵衛「何がるーるだ、何が具体的だ。すかしたこといってんじゃねえよこの青びょうたん。スパッと打ってバシッと返すのが卓球ってもんよ。そうじゃなければ卓球とは言えねえじゃねえか。そうだろ、みんな」
 長屋の人々「・・・・・・・・・」
 六兵衛「おい、なんだよおい。おまえらも認めるってのかよ」
 長屋の人々「・・六兵衛。諦めな。おめえの負けだ。るーる上は問題ねえと、ご隠居が言ってらあ」
 六兵衛「なんだとおい、何だよおい。それでいいのかよ。本当にそれで良いのかよ。おめえらそれで良いのかよ。こんなんで卓球と言えるのかよ。やってらんねえ、やってらんねえよ」

 大事なラケットを放り投げたそのままで、卓球台を去る六兵衛。

 六兵衛ガラガラと自宅の引き戸を開ける。
 六兵衛「おう、帰ったぞ」
 お富「いつもえらそうだねあんたは。仕事もしないでどこほっつき歩いていたんだい」
 六兵衛「うるせえなこの古漬け茶漬け。黙って茶でも出しやがれ」
 お富「自分のへそ汁でも飲んでな。どうせ負けたんだろう、この負け狸が」
 六兵衛「負けちゃいねえ、俺は負けちゃいねえはずだ」
 お富「何言ってんだいこの抜け作。試合はねえ、勝ちか負けかしかないんだよ。はずもくそもあるかい」
 六兵衛「おめえに言っても分かんねえだろうけどよ。どらいぶを打っても打っても効かねえし、挙げ句の果てには訳わかんねえ回転で返ってくるし。ありゃあ絶対細工がしてあるに違いねえ。反則だろありゃ」
 お富「あんたねえ、卓球何年やってるんだい。それはつぶだからばあと言って、あんたの打った球の回転が反転して返ってくる、そういう性質のらばあなんだよ」
 六兵衛「ちょっと待て。やけに詳しいなおい。卓球なんかやったことも無いし興味も無い、そう言っていたよな」
 お富、しまった、という顔をする

 六兵衛「まさかお前、経験者とかいうんじゃないだろうな・・」
 お富「ばれちゃあしょうが無い。お前さんには黙っていたかったんだけどねえ」

 
 お富「子鹿 蕪の部 藩代表で全国大会連続出場」
 六兵衛「・・おいおい」

 お富「全国寺子屋杯べすと16」
 六兵衛「・・まさか」

 お富「夏期将軍記念杯 3期連続決勝進出」
 六兵衛「・・・お富」

 お富「お江戸御前試合しんぐるす2回 だぶるす3回優勝」
 六兵衛「・・お前」

 お富「万国卓球展覧会団体戦 しんぐるす だぶるす 合計3つの金賞牌」
 六兵衛「・・・信じられねえ」

 お富「誰が呼んだか、ミスター卓球とはあたいのことさ」
 六兵衛「男かよ」


 
  



①長屋
お富「ちょっとあんた、家の金を持ち出して、どこへ行こうってんだい」
六兵衛「うるせえばばあ、俺が自分で稼いだ金だ、おめえにとやかく言われる筋合いはねえんだよ」
お富「何言ってんだいこの宿六が。この金は私が内職で稼いだ金じゃないか。適当なこと言うんじゃ無いよ」
六兵衛「いいからおめえは黙ってろい」

六兵衛 金を握って走り出す

お富「帰ってきたらただじゃおかないからなこのろくでなしのとうへんぼくめ」


②店の前
六兵衛「へへへ、今度は間違いねえ。今度こそ当たりだってんだ畜生め」

ガラガラ 戸を開ける音

店主「へい、らっしゃい、ってロクさんかい」
六兵衛「おうおう、最強らばあ"てなじい"ってのをだしな」
店主「"てなじい"ったあ景気が良いね。特厚、厚どちらがいいかい?」
六兵衛「 特厚に決まってんだろうこのトンチキめ」
店主「 200文になりまさあ。銭はあるのかい?」
六兵衛「高えなあ。蝶屋のやろう、足下見やがって。おら、200文だ、しっかり数えな」
店主「毎度どうも!」


③薄暗い一室
六兵衛「おら見ろこれが最強らばあの"てなじい"よ。こちとら200文もつぎ込んでいるんでい。おめえらの貧乏らばあなんかに負けるもんかい」
男1「それでは勝負勝負。両者台について」

カンカン

六兵衛(勝てば200文なんかあっという間に取り返せるってもんよ。この最強らばあ"てなじい"でな)

カンカン

六兵衛(・・・・ちっとも入らねえ。卓球幕府の用具欄でみんなべた褒めだったじゃねえか)

カンカン

六兵衛(・・・何が最強らばあだ畜生め。全然入りゃしねえ)

男1「勝負あり」

六兵衛「こりゃなんかの間違いだ。もう一度だけ勝負してくれ」
男1「 勝負あったんだ。けえりな」

六兵衛すごすご帰る

④長屋
お富「どの面下げて帰ってきたんだい、このひょうろくだま」
六兵衛「すまねえ。こんなはずじゃ・・・」
お富「またこんな高いらばあを買って。バカだねあんたは。たいした腕前でもないのに」
六兵衛「面目ねえ。これからは心を入れ替えて"でぐにくす"にする」






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