卓球迷宮地下1階

~貼ったり はがしたり また貼ったり~

カテゴリ:卓球個人事情 > 創作



 予想外の大反響で、コメントも多数(約1件)いただいた前回に引き続いての卓球小劇場まとめ。
 全開!妄想力!



「パパ、わたしのラバーに変なお薬塗らないで」



「ちょっとあなた聞いて。正男のベッドの下からこんなに使用済みのボンバード極薄が出てきたのよ。」

「放っておいてあげなさい。正男もそういう年頃になったということだ」




「剥がされ、捨てられていったラバー達の魂は、永遠に帰る場所を失い今も彷徨っているんだよ」

「先生、ラバーにも魂って、あるんですか」

明子の質問が耳に入っているのかいないのか、窓の向こうに見える入道雲をじっと眺めたまま、先生は決して答えようとはしませんでした
 


「嘘じゃ無い 僕は本当に見たんだ。テナジーより、ディグニクスより、もっと弾んでもっと回転のかかる粘着ラバーを」

また春男が嘘を言っている、そんなしらけた空気が教室の中に流れました。

でもその日を境に春男の姿がみんなの前から消えてしまったのです。



「しっかし本当にいるんだなあ、今でもオーソドックスDXを使っている人って」

「シッ、バカ。あのお方は次期県卓球協会会長と目されているんだぞ。逆らったら全員オーソドックスDXの使用を義務づけるって息巻いているらしいぞ」

「くわばらくわばら」



「全ての人がマークVを使う、そんな幸せな時代がいつかきっとくるよ」
 



「それを証明できない限り、俺は塗っていないのと同じだ」

うそぶくジロウの横顔を見て、太一は生まれて初めて殺意を覚えました。



泣きながら食い下がるシンジをじっとみていた剛はこう提案した。

「良し分かった。お前のビスカリアをもらう代わりに珍しいスワットをやろう。裏が表、表が裏になっている珍しいスワットだ」



「うちのお父さん、クスリの塗りすぎで頭がふらふらするんだって」

「へえ、飲み過ぎじゃなくて?」

「ううん、塗りすぎで」 

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 うすうす気がついてはいた。
 もしかしたら自分はおかしいのではないか。
 精一杯正常なふりはしている。
 多分他の人にはバレていないはずだ。 
 それでも心の底ではおかしいと思っている。
 卓球中毒。
 あまりに禍々しい言葉であるが故に、現実だとは受け入れがたい。
 だが、恐らく、あなたもそうなのだ。
 
 例えば
 どんなにキツい仕事や生活であっても、僅か数時間の卓球で乗り越えられる
 例えば
 決して生活は楽ではないが、卓球さえ出来れば満足している
 例えば
 デートと卓球の予定が重なったらどちらを取るか迷ってしまう
 例えば
 疲れて動けないはずなのに卓球の試合や練習なら苦にならない
 例えば
 卓球をしただけで一日充実した気分でいられる
 例えば
 練習が中止になっただけで不機嫌になる
 例えば・・・


 仮にこうした状況を誰かが故意に作り出しているとしよう。
 その誰かにとって、卓球中毒患者が増えるメリットはどこにあるのか。
 僅か数時間の卓球を与えられただけで満足し、長時間労働でも文句を言わず、搾取されても気がつかず、恋愛や家庭などささやかな幸せも放棄し、日々の少ない収入の中から嬉々として寄進して、半永久的に隷属する絶対安全下層市民。
 こうした状況を作り出しているのは一体誰なのか。
 なぜ卓球中毒患者が生まれるのか。
 まずはその手段だ。
 実は卓球の打球感、つまりラケットでピンポン球を弾くという行為に秘密がある。
 卓球中毒患者の証言によると、一度卓球をやめてもまたしばらくするとピンポン球を打ちたくなるらしい。ピンポン球を打ちたいだけなら野球のバッドでもテニスのラケットでも良さそうだが、「卓球のラケット」であることが肝心という。
 これはラケットやラバー、ピンポン球に精緻な細工が施されていることを示唆している。
 メーカーが研究に研究を重ねて目指しているのは性能の向上などではない。
 使用する者を虜にする悪魔的打球感の追求の結果、付随して性能が向上しているにすぎない。
 卓球中毒患者が熱心に練習するのは、技術の向上が目的ではない。
 よりよい打球感からよりよい快感を得るために練習しているのだ。
 卓球はラリーが醍醐味だと言われているが、連続して打球快感を味わえるのだから当たり前だ。
 強烈な打球快感を与えてくれる中陣からの引き合いなど、その快楽たるや想像するのも怖いほどだ。
 
 ここまで書けば重度の卓球中毒患者であるあなたも流石に察するのではないだろうか。
 思い出して欲しい。
 部活を選ぶとき、なぜ卓球部を選んだのか。
 卓球から離れるとき、誰かが親身になって引き留めなかったか。
 いつも熱心に練習に誘ってくれる卓球仲間とはどこで知り合った?
 なぜどのコーチも同じようなラケットやラバーを薦めてくるのか。
 卓球に否定的な恋人がいつの間にか音信不通になっていないか。
 洋服を買いにいったはずが、家に帰って袋を開けてみたら卓球ウェアばかりだったことは?
 ドラマを録画したはずが卓球ジャパンが録画されていないか。
 
 
 今からでも遅くはない。
 この恐るべき卓球中毒状態から逃げ出すのだ。
 骨と皮だけになっても恍惚とした表情でラケットを振るい続ける悪夢のような未来を振り払い、本来有るべき健全な生活を取り戻すのだ。
 私は今密かに脱出計画を進行させている。
 私はあなた方を見捨てない。
 この記事を読んで目が覚めたなら至急連絡をして欲しい。
 今から記すアドレスにアクセスしたらメールアドレスと名前をn、
  
 おや、こんな時間に誰だろう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
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 新聞を手に取ったら高校入試問題が掲載されていた。
 もうそんな時期なんだなあとコーヒー片手に国語の問題を読んでみた。
 今年は小説が題材のようで、全文掲載できないので冒頭に荒筋が書いてある。
 そうそうこんな感じだったと懐かしく思いながら、問題を解いてみる。
 内容についての選択問題が多いのだが、どうやっても間違えようのない選択肢ばかりで、きっと緊張しているとこんな問題でもミスをしてしまうんだよなと、受験生の記憶が蘇ったりもした。
 いかにも国語の入試問題で設問に使われそうな文章を、卓球関連だったらこんな感じかなと思いつくままに書いてみた。
 それっぽい登場人物、思わせぶりなセリフ、続きがありそうでなさそうな雰囲気、存在しない長い小説の最後の一文。
 私の書いた文章である。
 どうしたってちょっと妙なテイストが入り込むので、何が面白いのか分からない人の方が多いと思うが、私の頭の中はいつもこんな文章で満ちている。


 

「私にだって、分かるもん。お兄ちゃんが、いけないクスリを塗ってたこと。でも、お兄ちゃんには勝って欲しかった。悪い人を、みんなやっつけて欲しかった。」
ジロウは泣きじゃくる幸子の頭をぽんっと軽く叩き、むしろサッパリとした表情で審判長席へと歩き始めた


マジックカーボンが良いだなんて、本当はそんなこと、これっぽっちも思っていないんだろう?


ビスカリアを手にした僕は無敵だった。クラスの誰もが敵わなかった。
乱暴者の剛だって、こそこそ逃げ回るほどだった。
だから僕は勘違いをしてしまったんだ。



僕もいつかはディグニクスを買うだろう
そうして大事な何かが、手のひらからこぼれ落ちていくのを、きっと悲しく思うのだ




「ところがどっこい、マークVは今でもちゃんと生きている おめえらの知らないところでな」
ふわりと長い煙をくゆらせて、親分は嬉しそうに笑った


もう、お兄ちゃんの意気地無し
相手がテナジー05だからって、負けとは限らないわ。

 

太陽極薄・・・
もう俺に残されたラバーはこれが最後か

「速さがモットー カイリキ」を使う日が来ようとは
神ならぬ身には知る由もありませんでした

「ここまで来れば誰もいないだろう」
そう呟いたジロウは銀色のエナメルバッグの中からラバーと一緒に紫色の小瓶をそっと取り出し・・

「このブラックバルサ5.0は亡き父の形見 お前ごときに渡してなるものか」
そう叫んだ秋彦の目から止めどなく涙が溢れるのでした

「いいかい幸子 ラバーは生き物なんだ むやみに貼ったり剥がしたりしちゃならねえ」
優しく諭すように語りかけてふと上を見ると、見事なまでに晴れ渡った夏の空なのでした

「俺は緊張しているのか?」
汗で滑り落ちそうなビスカリア風ラケットのグリップをギュッと握り直した

くすんだベージュ色の膜をやっとの事で剥がすと新品と変わらぬスポンジが顔を出した
「やあ、キレイだ」
こぼれ落ちた言葉を慌てて飲み込んでジロウは辺りを見回した

「無理矢理伸ばせばまだまだ使えるはず」
ジロウは泣きべそをかきながらラウンデルの両端を引っ張った

「君はテナジーテナジー言うがね、テナジーってえのはそんなに偉いのかい? 僕にはどうも、そうは思えないんだ」
俯いたまま呟くと、小五郎はステッキの先で小石をはじき飛ばした

「君の言う通り、このディグニクスは剥がすとしよう。こんなものにいつまでも頼っているから、争いがなくならないんだね」
そうして海に向かってディグニクスを放ると、波立つ夕日の中に吸い込まれていく様を、いつまでもいつまでも、じっと見ているのでした

「俺の父ちゃんは、卑怯者なんかじゃ、無い。
粒高は、正式に認められた、立派な用具だ」
絞り出すような正男の声に、教室の中は静まりかえった

おっと、その懐から顔を覗かせている物騒なラケットはしまいたまえ

「坊や良くお聞き。お母さんはお前の事が嫌いになったんじゃない。ただ、ちょっとその表一枚ラバーが苦手なだけなんだよ」

「あっはっはっは、僕だよ小林君。こんな剛力男子を持った老婆が、いるわけ無いだろう」
なんということでしょう。
老婆の腰がみるみるうちにシャンと伸び・・

 
  
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寄る年波にも負けず

妻の監視にも負けず

小遣い減にも子供の冷たい目にも負けぬ

鋼のような精神を持ち

欲は隠さず

決して悪びれず

いつもセールの情報をチェックして

月に3枚のラバーと

2月に1本のラケットを買って

あらゆる所から

少しでも安く買える情報を入手し

少し使っただけで

また新しい物を買う

ネットの片隅のさらに片隅の

誰も知らないところで好き放題言い

誰かが木星2ブルーが良いと言えば

高田馬場まで走り

Twitterで09Cの評判を聞けば

通帳を掴んで家を飛び出し

試打動画でトリプルダブルエキストラが褒められれば

俺も持っているしあれは良いぞ、と言い

メルカリで国狂ブルーを見かけたら

どうせ偽物のくせにと憤り

誰かの役に立つ記事は決して書かず

その場限りのお茶濁し記事が得意で

年寄り相手に勝ったときは大げさに書き

子供に負けたらいいわけばかり書く

褒められもせず

参考にもされず

そういう卓球ブログ書きに

ワタシハナリタイ



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 私は40代半ばから卓球を始めた。
 軽い気持ちで始めたが、卓球は想像していたより遥かに難しかった。
 準備運動代わりのフォア打ちが出来るようになるまで何年もかかったし、ドライブの真似事も同様だ。
 バック打ちは何度も上達したと思ったが全てまやかしで、ここ半年くらいで何とか打てるようになった。
 私と同じような大人卓球初心者は、だいたい同じようなことを考えている。

 「頭では分かっているんだけどなあ」
 「動画で見たようには打てない」
 「子供は覚えるのが早くて良いなあ」

 何故このようなことになるのだろうか。
 子供達と比較すると答えは簡単で、反復練習の圧倒的な不足だ。
 ほとんどの子供は部活やクラブで反復練習を強制される。
 イヤだと思ってもコーチや先輩の目が光っているのでやめられない。 
 理屈はよく分からないままやっているので効率は悪いかもしれないが、ほぼ毎日何時間も繰り返して練習していればイヤでも身につく。
 その点大人卓球初心者は卓球に対する情熱こそ素晴らしいが、楽しみの範囲を超えてまで自分を追い込んだりはしない。 
 YouTubeなどの動画を見て分かったような気になり、練習でちょろっと試してやっぱり難しいや、と投げ出してしまう。
 大人だから身につかないのでは無い。
 必要な反復練習を避けて、効率よく覚えようとか言っているからダメなのだ。
 
 すっかり前置きが長くなったが、ここで「大人向け卓球部」の出番だ。
 ここはお金を払えば誰でも入会、いや入部することが出来る。
 普通の卓球教室と違って自分の好きな練習をリクエストしたり、疲れたから休むといった甘えは許されない。
 入部して半年はひたすら素振りだ。
 本来ならラケットを握ることすら許されないが、そこはさすがに大人向けなのだ。
 全員揃って声を出しながら何百何千と素振りを繰り返す。
 喉が潰れようが足がつろうがやめることは出来ない。
 なぜなら鬼のような先輩(役のコーチ)の目が光っている。
 一人でもタイミングが遅れたら全体責任で最初からやり直しなので皆必死だ。
 先輩に認められるとようやく卓球台に立つことを許される。
 こういった感じでフォア打ち、バック打ち、フットワークをひたすら反復練習。
 正しいスイングとか合理的な体重移動とか考える余裕など無い。
 筋肉痛だろうが腰痛(はマズいか)だろうがラケットを振り続けるのだ。
 次の練習サボりたいとかもう辞めたいとか考え出してからが本番で、その後地獄の夏合宿とか18日間連続対外試合とかまともな社会生活を送れるのか不安になるスケジュールであっという間に1年が経過する。
 2年目からは試合を意識した練習が加わり、今までどこにいたのか不思議だった監督(役のコーチ)がたまに顔を出して指導もしてくれる。
 こうして3年経つ頃には「頭では分かっているんだけど出来ないんだよなあ」などとこれっぽっちも思わなくなっている自分に気がつくだろう。
 考えなくても勝手に体が動くのだ。
 歩くように走るように、自然と体が反応する。
 右足を出すときは左手が後ろで、とか一々考えないでしょ。
 
 そうそう、言い忘れてたけど運が良ければ女子マネージャーまたはイケメンOB(役のコーチ)と甘酸っぱい体験も出来るオプションプランもあるので、気になった人は是非検討して欲しい。
 
 
  
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 前の記事の修正版です




 先日ラバーの質問があったので都内の某卓球ショップに初めて行きました。
 そこで出会った店員の応対が印象的だったので、覚えている限りを再現しました。


「ちょっとラバーのことで質問があるんだけど」
 

「はい何でしょう」
 

「今までヤサカのライガンスピンを気に入って使ってまして」
 

「ライガンスピン、あれは良いラバーですよね」
 

「ええ、それでその次のラバーというか、ステップアップするとしたらどんなラバーが良いか教えて欲しくて」
 

「ライガンスピンが気に入っているなら、もう少し弾みの増したラクザ7でしょうね」
 

「ラクザ7ですか。メモしておこう。ちなみにラクザ7からステップアップするなら?」
 

「ラクザ8ですね」
 

「ほうほう、ラクザ7の次は当然ラクザ8、ってラクザに8ってあったっけ?」
 

「あります。あまり知られてませんが。ラクザ7の後已打底タイプのNEOラクザ7が発売されて、プラスチック球切り替え時にラクザ8が」

「ラクザに已打底?」

 

「すみません勘違いです。どうもこう暑いとダメですね。ラクザ7の次はロゼナがよろしいと思いますよ」
 

「暑さのせいかなあ。まあいいや。なるほどbutterflyのロゼナですか。評判良いですよね。なるほど。ちなみにロゼナの次に使うとしたら、あ、あのトップ選手御用達の・・」
 

「そうです。ロゼナ7です」
 

「ちがうだろ。釘差しておくけどロゼナ8でもないからな」
 

「こりゃ1本取られた」
 

「あんた変だよ。本当にここの店員さん?」
 

「そうですよ。ここの店長です。真面目に行きましょう。もちろんロゼナの次はあのテ・・テ・・・テ・・・」
 

「言い淀むほどのこと?」
 

「すみません 恐れ多くて」
 

「やっぱりあんたおかしいよ。普通に言いなよ」
 

「緊張しちゃって。ロゼナの次は同じbutterflyのテンペストですね」
 

「古いよ。とっくに廃盤だよ。もはやどんなラバーかも分からないよ」
 

「そこはぐっちいさんのブログを参照して下さい」
 

「参照してくださいじゃないでしょ。本当に売っているなら出してきてよ」
 

「テンペストなんか売ってませんよ。しっかりしてくださいよお客さん。ロゼナの次はテンキョク2ですね」
 

「ゴリゴリの粘着じゃん。ロゼナの次がなんで粘着ラバーなんだよ。何言ってんだよ。ロゼナの次に来る『テ』がつくラバーって言ったらテナジーしかないでしょ」
 

「テナジー。そうですテナジーです。私がどうかしてました。お許しください」
 

「急に低姿勢になったな。まあ分かればいいですよ。それでテナジーっていっても何種類もあるじゃないですか。05とか64とか。ロゼナの次はやっぱり80FXとかですか?」
 

「まあ80FXも良いラバーですけど、当店一押しはこのテナジーです。テナジー05極薄」
 

「どこのWRMだよ。なんで極薄、しかも真空パッケージだよ。よくみりゃ05じゃなくて0.5だよ。アポロ5ですら0.7mmなのに。買うわ。むしろ買うわ。これいくら?」
 

「はいありがとうございます。8000円です。あと特注なのでITTF入ってません」
 

「使えないじゃん。それにメイドインチャイナって、全然テナジーじゃないよ。値段だけテナジーだよ。もう帰るわ」
 

「テナジー0.5極薄皮付きブルースポンジもありますよ」
 

「ブルスポ! いや帰るから」






「分かりました。本当のとっておきを出します」
 

「もういいよ。帰るから」
 

「まあ、そう言わずに。これはbutterflyの試作品なのですが、ブライスハイスピードで実用化されたマイクロレイヤー技術をさらに進化させて、それをテナジーの粒形状と組み合わせたラバーでして。このラバーを使ったらあまりの気持ちよさにもう他のラバーは使えないという中毒性の高いラバー。その名もテナジーオリジナル0.01」

「良さそうだけど何か名前が嫌だなあ」
 
「薄さ0.018mmの驚異的な薄さ、他社と比較して3倍の強度、あの嫌なゴムの臭いゼロ」

「念のために聞くけどラバーの話だよね」

「そうです。他に何があるとでも?そしてこのラバーの画期的なところはリバーシブルになってまして、裏返すと表ソフトになります」

「絶対それ卓球のラバーじゃないよね。他のゴム製品だよね」

「心配ご無用です。裏返すとテナジー独自の粒形状が表面に出ることにより適度な摩擦と・・」

「はいアウト」

「どうですお客さん、中の個室で試着、いや試打しませんか? 私がお相手しますよ」

「なんだよ試着って。言い直したよね。怖いよもはや」

「お嫌ですか?それならサンプル品をご自宅に送ります」
 

「頼むからやめて」

「サイズはやっぱりL? 大丈夫です。私がご自宅まで出向いて無料でセットいたしますから」

「おーい誰か警察呼んで」 

 

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 先日ラバーの質問があったので都内の某卓球ショップに初めて行きました。
 そこで出会った店員の応対が印象的だったので、覚えている限りを再現しました。


「ちょっとラバーのことで質問があるんだけど」
 

「はい何でしょう」
 

「今までヤサカのライガンスピンを気に入って使ってまして」
 

「ライガンスピン、あれは良いラバーですよね」
 

「ええ、それでその次のラバーというか、ステップアップするとしたらどんなラバーが良いか教えて欲しくて」
 

「ライガンスピンが気に入っているなら、もう少し弾みの増したラクザ7でしょうね」
 

「ラクザ7ですか。メモしておこう。ちなみにラクザ7からステップアップするなら?」
 

「ラクザ8ですね」
 

「ほうほう、ラクザ7の次は当然ラクザ8、ってラクザに8ってあったっけ?」
 

「あります。あまり知られてませんが。ラクザ7の後已打底タイプのNEOラクザ7が発売されて、プラスチック球切り替え時にラクザ8が」

「ラクザに已打底?」

 

「すみません勘違いです。どうもこう暑いとダメですね。ラクザ7の次はロゼナがよろしいと思いますよ」
 

「暑さのせいかなあ。まあいいや。なるほどbutterflyのロゼナですか。評判良いですよね。なるほど。ちなみにロゼナの次に使うとしたら、あ、あのトップ選手御用達の・・」
 

「そうです。ロゼナ7です」
 

「ちがうだろ。釘差しておくけどロゼナ8でもないからな」
 

「こりゃ1本取られた」
 

「あんた変だよ。本当にここの店員さん?」
 

「そうですよ。ここの店長です。真面目に行きましょう。もちろんロゼナの次はあのテ・・テ・・・テ・・・」
 

「言い淀むほどのこと?」
 

「すみません 恐れ多くて」
 

「やっぱりあんたおかしいよ。普通に言いなよ」
 

「緊張しちゃって。ロゼナの次は同じbutterflyのテンペストですね」
 

「古いよ。とっくに廃盤だよ。もはやどんなラバーかも分からないよ」
 

「そこはぐっちいさんのブログを参照して下さい」
 

「参照してくださいじゃないでしょ。本当に売っているなら出してきてよ」
 

「テンペストなんか売ってませんよ。しっかりしてくださいよお客さん。ロゼナの次はテンキョク2ですね」
 

「ゴリゴリの粘着じゃん。ロゼナの次がなんで粘着ラバーなんだよ。何言ってんだよ。ロゼナの次に来る『テ』がつくラバーって言ったらテナジーしかないでしょ」
 

「テナジー。そうですテナジーです。私がどうかしてました。お許しください」
 

「急に低姿勢になったな。まあ分かればいいですよ。それでテナジーっていっても何種類もあるじゃないですか。05とか64とか。ロゼナの次はやっぱり80FXとかですか?」
 

「まあ80FXも良いラバーですけど、当店一押しはこのテナジーです。テナジー05極薄」
 

「何ラバーマーケットだよ。なんで極薄、しかも真空パッケージだよ。よくみりゃ05じゃなくて0.5だよ。アポロ5ですら0.7mmなのに。買うわ。むしろ買うわ。これいくら?」
 

「はいありがとうございます。8000円です。あと特注なのでJTTAAもITTFも入ってません」
 

「使えないじゃん。それにメイドインチャイナって、全然テナジーじゃないよ。値段だけテナジーだよ。もう帰るわ」
 

「テナジー0.5極薄皮付きブルースポンジもありますよ」
 

「おーいスプリングスポンジはどこへ行った」




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迷宮エレジー


また戻るよ 振出しに

いつの間にか 全てが無かった事になっても 

大丈夫だよ いつものことさ

僕にとっては こんなこと 日常茶飯事


繰り返し 繰り返す

昨日のことなど 無かったように

進歩も 上達も 達成感も

いつものように アブクブクブク消えていく


ああそれが 無限のループ

始まりと終わりは 同じ蜃気楼の見た夢

ああそうして どこへも行けない

僕だけが 閉じ込められた世界


また戻るよ 振出しに

引いて当てて 振り上げて飛んでいってしまった

ネットを超えたのは いつのことだった?

届かないのは 僕の心 ただそれだけ


繰り返し 繰り返す

明日の夢など 失われたまま

技術の 進歩も 重ねた希望も

いつものように アブクブクブク消えていく


ああそれが 無限のループ

始まりと終わりは 同じ螺旋の見た夢

ああそうして どこへも行けない

この場所は 出口など無い迷宮









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 ちっとも上達しない。
 これほど熱心に取り組んだスポーツって他に無いよ。
 技術的なことだけではなく、使う道具まで研究しているんだよ。
 有料の個人レッスンだって何度も受けてるんだよ。
 家で素振りまでしてるんだよ。
 歳のせいにしていたけど、それだけなんかな?
 もっと適当にやっていたテニスとか柔道とかサッカーでも弱いなりに試合の形にはなっていたよ。
 サッカーで言ったらシュートはおろかパスもドリブルもできないレベルだよ。
 柔道で言ったら受け身を覚えてそこで止まっているレベルだよ。
 テニスで言ったらフォアハンドストロークはもちろんサーブも下からしか打てないレベルだよ。
 いくらなんでも難しすぎないかな卓球。
 
 そして気がついてしまった。
 これは私が運動オン、いや苦手なのが原因では無く、別の世界線に迷い込んでしまったのだと推測される。
 簡単に言うと、絶対上手にならないような仕組みを作って、永久に末端底辺プレーヤーから卓球界がお金を搾り取っている恐ろしい世界線なのだ。

 長年修行をしないと扱えないような軽くて小さい球&体の動きを邪魔する台&持ちにくくて扱いにくいラケット&絶妙に嫌な高さのネットを使用するスポーツを、あたかも簡単で楽しい競技であるかのように温泉卓球などと実態とはかけ離れたイメージと結びつけて喧伝する暗黒卓球界。
 末端底辺プレーヤーの味方のような顔をしている卓球教室も、ギリギリ達成感を与えてそれ以上は上手にならないようにコントロールして生徒を確保。真理に到達しそうになるとミスリードして生煮え状態から抜け出させない。
 メーカーはもっと合理的な方法があるにも関わらず、手作業での接着剤塗り&ハサミでカットという原始的な使用方法をユーザーに強要し、簡単に組み合わせを試す事を許さない。また、ほぼ同じ性質の用具をネーミングや塗料を変えて新製品と偽り価格をつり上げ末端プレーヤーからなけなしの小遣いを搾取。最新技術を駆使して、どんなに上手に打っても良い球はでないが、一定の割合で改心の一打が打てて、使用者が勘違いする特殊製造用具をせっせと発売している。
 ピンポン球などと可愛らしい名前だが、回転をかければかけるほど棒球になり、ある一定レベルを超えると割れるよう緻密な製造プロセスを経て作った球に★のマークをたくさんつけて売っている。
 もちろん雑誌メディアはメーカーと結託して購買意欲を煽る。0.1mmの違いを100mくらいの違いだと感じてしまうほどだ。
 技術解説と称してCGを使ったフェイク写真を掲載し、実現不可能な技を初心者技術と偽っているから、毎号毎号購入して舐めるように眺めても、ちっとも上達などしない。
 YouTubeは身近な親しみやすいお兄さんお姉さん風のキャラクターを使って、代表選手レベルの技術を練習すれば誰でも出来ますよニッコリといった感じの動画に仕上げているから、そりゃどんなに熱心に見たって同じようにはできない仕組みになっている。必死な私たちは、いつかは出来るはずだと信じて繰り返し見て、挙げ句の果てにDVDを買ったりとんだ間抜け面をさらしているわけだ。
 
 これで上手になるわけはない。
 上達しないように計算し尽くされているのがこの世界の真実なのだ。
 本当の世界に戻りたい。
 練習すればしただけ上達する健全な卓球界に帰りたい。
 こんな恐ろしい暗黒卓球界が支配する世界線はもう懲り懲りである。
 今更だが気がついて良かった。
 もう少しで手遅れになるところだった。
 この真実を速やかに伝えて暗黒卓球界の支配からd・・

 おや、誰か来たようだ

 
 
  
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僕の手元に1本のくたびれた卓球ラケットがある。

上板が剥がれ、縁が欠け、グリップが黒ずんだそのラケットは、確かに6年間娘と共にあった。

高校生になって卓球から離れた娘のルミは、今まで打ち込んだ情熱などきれいさっぱり忘れたようで、部屋の片隅に放ってあったラケットを僕が引き取ることを申し出ても何の感慨も見せず、ますます僕を落胆させた。


僕とルミは同時に卓球を始めた。

卓球の相手を探していた妻が、手っ取り早く夫と娘を引き込む事を思いついたのは、ルミが小学校4年生の時だった。

サッカー少年団に所属していた長男の龍三郎のオマケのような存在から、自分が主役になれるのが嬉しかったのだろう。ひわた市主催の卓球教室で僕と妻と一緒に練習するだけでは満足せず、隣のきわせ市で活動していた卓球サークルに加入して、あっという間に僕との差を広げていった。


ひわた市もきわせ市も、小学生女子の卓球人口はとても少ないので、一回勝てば決勝戦ということも珍しくなかったが、入賞する喜びを経験できたことは意味のあったことだと思う。

その頃の僕はといえば、まともにフォア打ちもできないありさまで、ルミが6年生になる頃には全く敵わなくなっていた。もちろんそんなそぶりはルミの前では見せなかったけど。


ルミはとにかく負けず嫌いで、僕や妻が相手でも負けそうになるとよくふくれっ面をしていた。

僕は楽しく遊べればそれで良かったので真剣に打ち合うことも無かったけど、ルミ以上に負けず嫌いの妻は思いっきり打ち込んではルミを泣かせていた。

「泣くからあんたとは打ちたくない」

なんていう妻のセリフを何回聞いたことか

聞いているこちらはハラハラしっぱなしだった。 


この頃だったかな。

WRMのセールにルミと2人で出かけて、僕がラケットにイラストを描いてもらったら店を出た後自分のラケットにも描いてもらうようお願いして欲しいとしつこく言ったり、ラバーを買ってあげたらすぐに使ってみたいからと自宅に戻ってすぐに着替えをして卓球場に行ったり、市のプール内にある卓球場で汗を流した後そのまま着替えてプールに飛び込んだりしたのは。


土星プロ 水星2ブルースポンジ パナメラ(中国の表ソフトだ) オリジナルエキストラ ハモンド ザルト プラクソン350 

僕の用具研究に基づいて色々貼り替えたけど、喜んでくれていた頃は可愛かったなあ。



中学生になったルミは、親の期待通り卓球部に入部した。

卓球ブームといえるタイミングだったので、入部した生徒は多かったけど、経験者はほぼルミ1人だったようだ。

昔は強かったとはいえ、近年の六方中学女子卓球部はぱっとしない実績を積み重ねていた。


僕も妻も楽しく卓球をしてくれれば良いな、くらいに考えていたので勝敗はどうでもよかったんだ。

けれどもルミは違ったらしい。

個人戦より団体戦。

自分が勝つことよりみんなで勝ちたい。

そんな気持ちはいつしかみんなに伝わったんだろうね。


2年生まではルミ1人が強くて、何度も県大会に出場して県ベスト16とか32とか、ひわた市では名の知れた存在になっていたんだ。

なにしろ道を歩いていると他の学校の女子卓球部員から声をかけられ、卓球場で僕や妻と練習していると他校の男子卓球部員から試合を申し込まれ、試合に出ると「あれがルミさんよ」と周りがざわざわし、一緒にいた妻は「ルミさんのお母さんですね」と見知らぬ中学生から挨拶されるような、まるでマンガの登場人物みたいな存在になっていたのだ。


そしてルミの同級生達も真面目な子が多かったのだろうね。

一生懸命練習をして、いつしか市内でも優勝候補の一角と言われるようになっていたんだ。


そして中学3年生の最後の大会。

市の体育館で決勝を争ったのはライバル校の千早台中学。

僕は見に行けなかったけど、間近で見ていた妻によれば団体戦は大接戦の末負けてしまったらしい。

個人戦の準決勝の相手も千早台中学のエース。

ルミもちょっと前までは市内敵無しだったけど、さすがに3年生にもなると他の子も上手になっていて、特にこの千早台中学の子にはルミも練習試合では勝てなかったとは妻の談。

身内の妻の言うことだから話半分で聞いて欲しいけど、この個人戦準決勝は取ったり取られたりのもの凄い激闘だったんだって。

最後には実力以上の力を発揮したルミが試合を制して、握手しながら感極まって大泣きしたっていうから、相当嬉しかったんだろうね。

そのまま決勝も勝ったルミは見事県大会出場を決めたんだ。


市内大会が終わって同級生達はみな引退したんだけど、県大会に1人出場するルミのために、何人か自主的に練習相手を勤めてくれた。ホント嬉しいよね。


みんなで一緒に県大会出ることを目標にしていたルミは、1人参加した県大会ではモチベーションが上がらぬまま一回戦で嘘のようにボロ負けをして帰ってきた。

頭の中は高校受験で一杯だったのか、市内大会団体戦敗退の時点ですでに中学卓球は終わっていたのか、不思議とすっきりした顔だった。



高校生になったルミは卓球部を選ばなかった。

「卓球もやりたいけど他にももっとやりたいことがある。

卓球が嫌いになったり飽きた訳じゃないよ。」

ガッカリする僕を慰めるように言うルミの表情は随分大人っぽくなっていた。
 

僕はちょっと恥ずかしくなって視線をそらした。

すると不意にあの頃のルミの姿が蘇る。

ふくれっ面でラケットを振るルミと、同じくふくれっ面で打ち返す妻。

ふくれっ面だけど、2人とも目は笑っているじゃないか。

何だ、やっぱり卓球が好きなんだな。

僕は何だか可笑しくなった。


ルミはきっとまた卓球を再開する。
何年後、何十年後かは分からないけど。
高校を卒業して、大学生になって、社会人になって、結婚して、ある日急に思い立って卓球を再開する。
その頃には結婚して子供がいるかもしれない。
ふくれっ面をして練習をしている子供に向かって、「私はあなたくらいの時はもっと強かったのよ」、と言っているかもしれない。

その時のために、上板が剥がれ、縁が欠け、グリップが黒ずんだラケットを僕は大事にしまっておくことにしよう。
君が再び卓球と出会う日まで。



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